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山陽特殊製鋼さんの ”QCM8” について 

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この鋼種の一般的な特徴

山陽特殊製鋼さんの説明では、「高硬度と高靭性を両立した冷間ダイス鋼で、鋼中炭化物の大きさを制御することで、硬度、じん性、疲労強度、耐摩耗性の全体においてSKD11を凌駕 … 」とカタログに紹介されています。

つまり、SKD11は冷間工具鋼の高合金、高じん性タイプですので、さらに高じん性で、SKD11よりも若干耐摩耗性が劣る点は、高温焼戻しによる高い硬さが出るのをうまく利用すると、耐摩耗性を補えるし、高温焼戻しによって、凝着摩耗に強くなることで、幅広い製品に使用できます。

QCM8の製造上の特徴について

山陽特殊製鋼さんはベアリング鋼のトップメーカーで、早くから真空脱ガス装置などの高清浄度精錬によって、ベアリング転造寿命の飛躍的向上などの実績があります。

それを踏まえて、カタログにあるような、上のような特徴を作り出しているという感じが、よく出ています。

山陽特殊製鋼さんの溶解工程

開発時の技術資料を見ますと、S(硫黄)0.005以下、O(酸素)12ppm以下としていますので、この辺りも製品寿命向上に対する鋼材特性UPを考えて製造されていることがうかがえます。

材料特性

顕微鏡組織の比較

SKD11にたいして、ミクロ組織が優れていること、シャルピー衝撃値が非常に高いことが示されています。

カタログでは化学成分は示されていませんが、工具鋼分類では、8%Cr系のダイス鋼に分類されています。

ここでは、同社の山特技報にある資料から一部を紹介します。

この鋼種は、組織における炭化物に留意することで高い靭性を持たせているようです。

シャルピー値

この試験値は、10RのCノッチによる試験値で、非常に衝撃値が高いのは、高温焼戻しによる結果とみていいでしょう。

高い硬さにおいて、飛びぬけて高い値を示しています。

通常は、冷間工具鋼の材料を選択する場合は、ここに比較のために示されたSKD11を基本にすることが多く、このSKD11は高耐摩耗性に優れた材料ですが、組織写真に見られるように、熱処理では消えない大きな共晶炭化物あるので、どうしても高い衝撃値は望めません。

もちろんこのSKD11の炭化物は高い耐摩耗性に寄与するのためのものですので、QCM8は炭化物が少ない分だけ、耐摩耗性が低くなるというのは避けられません。

熱処理曲線

しかし、QCM8は、500℃以上の高温焼戻しで、62HRCを超える硬さが出ますので、この硬さによって炭化物量が低下したことによる耐摩耗性を補うという考え方です。

さらに、高温焼戻しをすることで、摩擦熱などで昇温しても、その焼戻し温度に達するまでは焼戻し効果による硬さ低下は少ないので、耐焼付き性や高温に対する特性が良い … と評価されます。

高温焼戻しをする熱処理は、低温焼戻しにくらべて少し難しくなりますが、高温焼戻しすることで、硬さ、じん性、高温特性などを付加した製品にすることができるという特徴があります。

SKD11は12%Cr系の材料ですが、QCM8は下に示す特殊鋼倶楽部さんの鋼種分類では「8%Cr系」に分類されており、大同特殊鋼さんの「DC53」、プロテリアル(旧:日立金属)さんの「SLD8」と同系統の成分系になります。

当然、共晶炭化物を出さないためにはC(炭素)量をコントロールする必要がありますので、炭化物が少ないために耐摩耗性はSKD11より劣ります。

しかし、Mo(モリブデン)を増やすことにより、2次硬さ(高温焼戻しにより再硬化する硬さ)が出るように設計されていますので、高い硬さによって耐摩耗性の低下を補うことができます。

高じん性と評価される大同特殊鋼のDC53などもこの系統ですが、山陽特殊製鋼さんは、共晶炭化物を極力出さない成分設計にすることで、非常に高いじん性があることを強調していますので、SKD11で割れが生じる品物や耐熱要素が欲しいところに使用しての効果が期待できます。
(カタログでは成分が公表されていませんので、ここでも示していません)

熱処理仕様

標準熱処理条件

焼入れ温度はSKD11と同じ温度範囲ですが、高温焼戻しをすることで、硬さが高いことが大きな特徴です。

通常の刃物などでは、60HRC以上の硬さが用いられますが、SKD11は200℃程度の低温焼戻しでその硬さになります。

QCM8は500℃以上の高温焼戻しをすることが推奨されています。

500℃以上に上げることで耐熱性が向上します。

これは、せん断刃物など、刃先近傍が摩擦熱による影響を受けるものには効果的です。

また、高温焼戻しをすることで残留オーステナイト量が少なくなるか、または安定するので、変形による加工誘起マルテンサイトの生成が抑えられるなどで長寿命化が期待できます。

残留オーステナイトとは、焼入れ時に硬化しない組織で、SKD11では20%以上残った状態になっていますが、560℃程度でほぼなくなるとされています。

残留オーステナイトは見かけの靭性値を向上させる効果がありますが、経年変化や外力で分解して変形などの原因になりますので、出来れば少ないほうがいいとされています。

QCM8はこの点では長寿命に貢献する一つの要因と言えます。

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さいごに

材料は、一般的に言うと、耐摩耗性と靭性の両方に優れたものはありません。

QCM8はSKD11よりも耐摩耗性は劣りますが、熱処理でその劣っている部分を補うことができますので、SKD11より進んだ新しい材料だといえるでしょう。

冷間工具鋼一覧 雑誌特殊鋼より

この図は、度々引用しているものですが、特殊鋼倶楽部さんが発行している雑誌「特殊鋼」の、冷間工具鋼の各社が販売している鋼種分類です。

ここでは、QCM8は8%Cr鋼系として分類されており、この8%Cr系の材料は、表にあるように、各社でも製造して販売しています。

一般的には、このようなカタログにあっても、サイズが限定されたり、特定の販売ルートしかない場合が多いのですが、山陽特殊製鋼さんでは、製鋼技術の正確さで安定した製品を供給できるとPRしていますので、サイズの充実などが図られているのでしょう。

そして、山陽特殊製鋼が示す特徴として、「放電加工性が良好」とあります。放電加工やワイヤカット時の変形や割れなどのトラブルに強いということでしょう。

ここに示されている各社の8%Cr系の鋼種は、いずれもSKD11の高靭性タイプと位置付けることができますし、各社はそれぞれ特徴ある要素をPRしていますので、実際に購入されるときはそれらのカタログや販売店のアドバイスを受けるといいでしょう。