金属が好きです

鋼種ごとの性質について説明します。

図表は各社のカタログの図を引用して見方や考え方を長年の使用者視点で説明しています。

◎ 日立金属のSLD

まず、刃物や工具などの冷間工具鋼の代表格の日立金属のSLDのカタログの図表を見てみましょう。

SLDの単品カタログでは主にJISのSKD11と比較したときの(当然のことですが)優位性が示されています。

鋼材の仕様(品質)については、日立金属に限らず、どのメーカーの製品も、JISのレベル以上になっています。つまり、JIS品質というのは、品質の最低基準を決めているというために、JISマークの付いた製品はJISの基準以上であると言えます。

そこで鋼材メーカーは、成分範囲を狭めたり、不純物を少なくするなどの自社基準を定めて、高品質な製品を作っています。

工具鋼各社の冷間工具鋼

つまり、SKD11と呼ぶのではなく、日立金属ではSLD、大同特殊鋼はDC11などと、自社の鋼種名をつけていますので、それで呼称するのが適当と言えます。

このこのこともあるので、JIS品質のSKD11との比較を示す必要はないのですが、この鋼種が冷間工具鋼の基本鋼種になっているものであるので、単品のカタログで鋼種紹介をするには、このような優位性を示す方法しかないのかもしれません。

ですから、比較して優劣をみるのではなく、基本鋼種として何を重視したらいいのかというメーカーの考え方を読み取るといいと思います。

ここでは、なぜこの内容がカタログに示されて、比較しているのか・・・というところを考えながら見ていきます。


(この中で緑字で示した部分は、私の見方考え方を示しています。もちろん、これは書籍などに載っていない見解や内容もあります。それらについては、こういう考え方のあるのか・・・という程度で見ていっていただき、その他に考え方を含めて知識を高めていただき、なにかの役に立てればと考えています)

このSLD自体は私の知識の範囲では、1970年ごろからある鋼種で、もちろん、この系統の材料は世界的に冷間工具鋼の基本鋼種となっています。

冷間工具鋼は一般的には58HRC以上で使われ、鋼材品位は、刃物や工具の寿命に関係深いものです。

大阪千里万博の頃にはこの鋼種がありましたので、長い間、冷間工具鋼の基本鋼種に君臨しているということになります。

(1)化学成分

SLDとSKD11の成分比較

ここでは(当然ですが)「不純物量が少ない」ということが示されています。

Ni(ニッケル)を除いて、これらが多いと主に「じん性」が低下します。

特にP(リン)は材料(製鋼時の原料)に由来するために簡単にこの値を下げられないもので、逆に言うと、ミルシートを見て、Pの低い材料のほうが品位が高いといえるので、それだけいい材料を使っています・・・ということを日立金属は強調しています。

不純物についてはJISにも「非金属介在物」という指標があります。これが多いことも同様に鋼材の品位を下げます。

このために、じん性値を下げる原因になりやすい「S」「P」「Cu」の数値を下げていることを特徴付けています。

もっとも、近年の鋼材は、製鋼技術が向上して、SやCuを下げるのは特に「大変」というものではありません。しかし、この「P」は原料由来のものであるため、0.005%という量はすごいもので、製鋼で改善することが難しいことから、「原料を吟味した高級鋼」をPRしている・・・ということが言えます。

日立金属が、このように P<0.025としているのは、大きな重要な点だと考えていいのですが、このようなところを見るポイントにするといいでしょう。

次にNi(ニッケル)です。この元素についての考え方には諸説があります。

昭和年代後期までは、「Niは好ましくないもの」という考え方が強くありました。そのためにそれが少ないほうが良いという考え方がカタログ上にも残っているのでしょう。

しかし近年では、むしろ、Niを含むほうがじん性や焼入れ性を高めることから「良い」と考える人も多いようです。

私も、このNiの数値が1%を超えると、焼入れ硬さや残留オーステナイトの問題が出るので別の考え方が必要と考えますが、この表のように、0.15以下にこだわる必要は現在の考え方では全く無いと考えています。

最近の製鋼技術はすごいハイレベルです

ミルシートなどに表示される成分値は、レードル分析値が表示されています。

これは、インゴットに鋳込む前の溶湯で採取した試験片で分析されるもので、凝固する際に成分のばらつきが生じるために、溶湯は「平均値」として信用できるものになっています。

SLDの成分例

ここに示されている成分はJISに示される代表的なもので、各鋼種の成分については成分範囲(合金の含有量などの各社の規格値)が定めてあり、この範囲はJISの規格値よりも狭い範囲に絞っています。

各製鋼メーカー側は、製品全般のばらつきが小さくなっていて、品質が安定しているということを「ウリ文句」にしています。

さらに、(これは日立金属だけでなく各社に言えることですが)、製鋼技術が非常に進んでいますので、高価な合金(たとえばMo)を規格の下限いっぱいに制御して鋼材コストを下げている・・・という巷の声も聞くぐらい、各社は高い技術力で、ばらつきの少ない鋼材を作っていることは確かだと言えます。

例えば、SLDのMoの規格値は0.80-1.20%ですが、Moは焼戻し抵抗や高温強度、じん性向上などに関係しますので、0.8と1.2で、特性は同じなのか・・・というと微妙です。

一時、それらの成分傾向を追跡して調査したところ、下限に偏っていたことは確かでしたが、0.80と1.20でどのような違いが出るのかと言うと、その他の成分との関係もあるので、よくわかりません。ただ、そういう見方をする事もあることを覚えておくといいでしょう。

各社間の特徴もある・・・

製造各社はポリシーを持って製品を作っていますので、各社の特性が同じということはありません。

例えば、SKD11系の材料でも、熱処理後の硬さについては、炭素量と炭化物量の影響があるようで、熱処理現場の人は、日立金属のSLDと大同特殊鋼のDC11を比較すると、DC11のほうが高い硬さが出やすい・・・などといいます。

また、熱処理後の変寸の傾向や違いがあります。これらがメーカーの特徴でしょう。

硬さについては、熱処理条件を変えればどうにでもなることですし、残留オーステナイト量など成分以外の影響もあるのですが、このように、例えば、SLDとDC11は同じSKD11に分類されるものであっても、特に少し大きな品物になると、熱処理をすると硬さや変形なども、実験値(カタログなどの数値)には出ていない、いろんな面で違いがあります。

だから、「SKD11だから・・・」と纏めてしまわずに、日立金属SLD、大同特殊鋼DC11、山陽特殊鋼QC11,日本高周波KD11・・・などは、全て「違う鋼種」と考えたほうが良いですし、そうしておいてその鋼種の特徴に慣れることがいいといえます。


(2)強度・じん性

カタログでは、いずれもSKD11よりも優れています…という項目や特性が示されています。もちろん、カタログに劣っているものは示さないでしょうから、これらを示しているのは「子供だまし」のように思えますが、SKD11が工具鋼の基本鋼種ですので、他に示しようがない・・・ということかもしれません。

・・・と言っても貴重なデータですので、少し説明を加えておきます。


(1)ひずみ量
SLDのひずみ量

この図は、絶対的な数字ではなく、一つの例という程度に考えるといいでしょう。

SLDやSKD11の変寸量は+0.1%程度で、長手方向に鍛伸されたものであれば、長手方向とその直角方向では変寸量が異なるという点だけを見ておけばいいでしょう。

SLDの変寸例

もう一つのグラフも同様に一つの例としてみればいいのですが、ここでは、焼戻し温度に伴う変化が紹介されています。

この図では、60HRC以上にする200℃程度の焼戻しでは、長さが伸びて、厚さが減少しているという結果で、さらに、試料によって結果が異なっています。

長さ方向と直径方向の熱処理後の寸法の違いは「成分+製鋼+熱処理」で変わりますので、いつもこのような傾向(数値)だと考えてはいけませんし、変寸率が0.1%と書くと、小さいようですが、1mの品物を熱処理すると、1mm伸びるということですので、これが3次元的になると、0.01%でも「熱処理変形」にすごい大きな影響を及ぼします。

穴ピッチや形状の狂いを嫌って、変寸量を推定して熱処理をしなければならないこともあるのですが、経験的にはメーカー差、鍛錬比等の製鋼時の影響及び品物の大きさや断面寸法などで、驚くほど異なるのが実情です。これは、何十年たっても、把握しきれていません。

通常は長さ方向に延伸して圧延・鍛造しますので、ここでは、「長さ方向の変化量は幅方向(直角方向)よりも大きい」ということを覚えておくと、一般的には、材料が長くなる方向に圧延や鍛造で伸延されますので、そうすると長さ方向の相対変化量が多くなります。

この図では、試験片の製作履歴が示されていないために、日立金属の優位性は示されていないということになるのですが、「偏析が少ない=変寸が小さい」ということを示したい・・・ということかもしれません。

***

個人的な評価ですが、日立金属の材料は、平成5-6年ごろまでは他社製に比べて変寸量の安定性やじん性の高さは優れていました。(注:変寸量が少ないということではありません)

これは、インゴット(鋼塊)の大きさが他社に比べて比較的小さく、鍛錬などの仕様も高度に管理されていたためですが、それ以降は、各社ともに製鋼レベルが格段に上がったことなどもあって、大差がなくなった感じを持っています。

(2)抗折試験
SLDの抗折試験値

日立金属の場合はここに書かれている「φ5x支点間50mm」での試験が標準になっています。

日立金属の他のデータには、破断荷重(抗折荷重)xたわみを「吸収エネルギー」と考えて「静的なじん性値」として表示し、鋼種間の比較をする図表も多く見られます。

この試験では、58HRC以下程度の硬さになると、試験片が折れないこともあるので、その硬さ以上は抗折試験で、58HRC以下は10Rシャルピー衝撃試験で比較される場合が多いようです。

試験をするにあたっては、試験片の採取位置が結果に作用しますし、また、その他の機械的性質(強さ、じん性など)も 材料方向のとり方によって大きく変わります。

そのために、伸延方向を「L方向」、 それに直角の方向を「T方向」と表現される場合があり、機械的性質の試験片は、断りがなければL方向にとった値が示されているのが一般的ですので、表記のない場合は、長く伸展されたL方向の材料による試験と見ることができます。

つまり、これらの試験値は、製鋼時の鋼塊の大きさ、鍛造の仕方、試験片を採取る品物の大きさ、採取位置・・・などの影響を受けます。

もちろん、日立金属では、試験片の採取方法などを標準化して、他鋼種と比較していますが、実際の鋼材で抗折試験をすると、ここに示すような良好な値にならないことも多いということを知っておきましょう。

例えば、実際の品物(の大きさの鋼材)から試験片を切り出して試験をすると、全く違った値になリます。これを「実体から試験片を採取する」といいますが、この抗折試験や次の衝撃試験値などは、かなり低くなります。つまり、鍛錬の仕方などで実物の値は、かなり異なっています。

(3)シャルピー衝撃値
10Rシャルピー衝撃試験

このシャルピー試験は、図のように特殊なノッチ(切り欠き)形状が採用されています。 この試験片形状はJISには規定されていません。

ただ、高硬さの試験では、ノッチの形状やノッチの加工精度で大きく結果が変わることもあって、大同特殊鋼の前身の特殊製鋼では12Rの試験なども行われていましたが、工具鋼では、日立金属がこの試験を先導していたこともあって、性能比較をする上でも便利なように、現在では、この図中にある「10Rシャルピー試験」が行われることが多いようです。

つまり、これはJISに規定されていない形状ですが、国内標準になっているといってもいいのでしょう。

ノッチの形状が変われば値はその他の試験片によるものとは全く変わってしまいます。無ノッチの試験を主張するメーカーも有るのですが、ノッチをつけたほうが数値のばらつきは少ないためにこれが用いられるのでしょう。

***

個人的な見解ですが、SLDは(平成初期までは)他社の同系統の材料に比べて、共晶炭化物の大きさが小さく、衝撃値が高かったのは事実でした。そして、当然ですが、硬さも出にくく、耐摩耗性は他のメーカーに劣るという感じでした。

近年は、メーカー差がなくなってきた感じですが、当時は、その特徴別にメーカーを選んで鋼材を調達していたくらいに各社のSKD11は特徴的だった記憶があります。

しかし近年はこの傾向も顕著ではなくなりました。各社の材料全般に言えることですが、近年の材料は非常に高品位になっています。

(4)摩耗試験SLDの摩耗試験例

近年は「大越式迅速摩耗試験機」が使われることが多いのですが、ここでは「西原式摩耗試験機」による結果が示されています。

摩耗試験の数値は、試験機や摩擦条件を一定にして試験した場合には、摩耗減量の少ないほうが耐摩耗性が高いということです。

一般的に、耐摩耗性は、硬さ、炭化物量、炭化物の大きさ、炭化物の種類で決まり、耐摩耗性が高いとじん性は低くなります。

このことから、この図を見ると、比較材JIS-SKD11にたいして、SLDのほうが「じん性も耐摩耗性も優れている」という条件を満たした結果になるのですが、少し無理があるように感じます。

この図は、1つも結果と考えて見ておくといいでしょう。

***

摩耗試験の結果のばらつきは非常に多いために、一般的な耐摩耗性の優劣の評価は、(一応試験はしてみるのですが)成分、組織などから、マトリックス硬さ、炭化物の種類形状などを含めて、摩耗試験値を参考にしながら総合的(経験的に)に評価するようにしています。

だからこれは、私の感覚では、かなり「無理をしている図」だという見方をしてしまいます。

摩耗試験の摩耗量は、(西原式でもそうですが)熱処理方法と硬さ、炭化物量、炭化物分布などとの影響を受けやすく、私の経験では、昭和年代では、SLDは他社材に比べて、相対的に1次炭化物の大きさが小さい傾向にありましたので、じん性はたしかに高かったのですが、耐摩耗性は大きな炭化物のものより劣るのが普通で、他社材に対して、耐摩耗性は低いと評価していました。そのために、ここに示された内容は、何が結果に影響しているのかがわかりにくいものです。

(5)回転曲げ疲労試験 
SLD回転曲げ疲労試験例

このグラフの見方は少し特殊なもので、右下がりの部分は試験片が破損したときの回転数で、平行になっているところは折れない状態を示しているという、独特のグラフです。

この図を提示しているのは、SLDが「清浄度が高い」とか、「炭化物が均一」などの結果を示しているのでしょうか? 

***

加工条件や熱処理条件が示されていないので、特に何がどうなのかを評価している図ではない感じがしますが、アイソトロピーの効果を見せるためのグラフだとみると、「こういうものだ」という感じで見ておけばいいと思います。

つまり、ここにある、「アイソトロピー」という言葉が「ミソ」です。

これは等方性という意味合いがあり、通常は方向性がある鋼材になるのをそうならないように、いろいろな技術を駆使して作って材料的に方向性のない均一性の高いものを作るという製造工程に則っているものと言えます。

そうすると、このようになるかというと、非金属介在物や清浄度、酸素量、炭化物の均一性、残留オーステナイト量などの影響が大きいのですが、どうも掲載する意図がわからない図を長い間掲載しているものだなぁ・・・と思っています。

(6)打ち抜き精度

SLDの特徴例

これは、試験の1つの例だという程度に見ておけばいいでしょう。

***

説明文には、ある程度の試験条件が書かれていますが、この図もよくわからない図だと思っています。

かえり高さの増加傾向を見るのか、絶対量を見るのか・・・など、考えるほどにわからなくなる図ですが、SLDのほうが共晶炭化物が小さくて分散しているため、微小チッピングが起きにくいため・・・などを言いたいという感じもします。

しかし、このような試験は、極端に言うと、硬さが0.5HRC違っても、被切断材の厚さを少し違っても、最適なクリアランス(工具間のスキマ)を検討しないと、完全に違った数値になる可能性が高い試験なのですが、一番の疑問点は、使用する初期状態からカエリに差が出ている数字があることがこのデータのとり方に疑問を持ってしまいます。

つまり、工具精度やセッティングの問題があると考えていないのが不思議な気がします。

これらは一般論で考えても、経験的に考えても、耐摩耗性を除いてSKD11よりも絶対にSLDのほうが優れた値が出るのが普通といえる数値を掲載していますので、逆に考えると、他鋼種と比較するならともかく、このようにJIS-SKD11と比較する意味の必要性は感じられないものです。

これはSLD単品のカタログですので、優位なデータが示しにくかったからだと思っていますが、それを悪く言うつもりはありません。

日立金属は、素晴らしいメーカーで、いろいろな試験データをたくさん開示していますので、これらの数値は非常に貴重なものです。

何よりも、SLDの良さは、50年以上愛されている鋼種です。他鋼種と比較をしてみると分かりますし、もちろん、他社のSKD11に相当する材料も同様ですが、一般的には、SLD(SKD11)を基本にして、もっと耐摩耗性が高い材料はないか、もっとじん性が高い材料がないか・・・という鋼種選定の考え方をしますので、このSLDの特性を知ることで工具や刃物に最適な材料を考えていくことが可能になります。

同社カタログには、下のように比較値を掲載して鋼種選定ができる資料が提供されています。まず、基本的にSLDの特性を掴んでから、対象になる鋼種との優劣を比較して鋼種選択を考えることがいいでしょう。

シャルピー値鋼種間比較 抗折力鋼種間比較 耐摩耗鋼種間比較

これらのグラフからは、①じん性値と耐摩耗性は相反する性質であること ②硬さが高くなるとじん性が低下していくこと ③同じ硬さであっても、成分(鋼種)によってじん性値が異なること・・・などを見ていくことになります。

工具や刃物に対してベストな鋼種を選ぶことと、最適な状態の熱処理をすることの必要性や重要性などがこの数値から読み取る事が必要なのですが、これらのデータを提供している日立金属の凄さが現れていると思っています。これらについては、機会を見て別に説明することにします。


◎ 大同特殊鋼の DC53    

このDC53は、「じん性の高いSKD11」というPRをされていたこともありますが、現在では、「8%クロム系」の鋼種として、別に分類されている、使いやすい、優れた鋼種です。

これもあって、DC53の場合はSKD11と対比したデーターを示して、SKD11以上の性能であることがPRされています。

8%Cr系の鋼種とSKD11のような12%Cr系の鋼種は、違った系統の鋼種と考えるのがいいでしょう。(8%Cr系は、最初に示した各社の対照表に見るように、各社が製造している主要鋼種と言えます)

基本的な成分設計の考え方は、SKD11のじん性不足を補うために炭素量を少なくして炭化物量を減らし、耐摩耗性の減少は、Mo量を多くして、高温焼戻しによって高い硬さを得ることで耐熱性をともなった耐摩耗性を高めるている・・・というものです。

もちろん、大同特殊鋼では、DC11(≒SKD11)も広く販売されているのですが、逆に言うと、社内的には「すみ分け」ているのかもしれません。

材料単価としては高くなるはずですが、SLDに対抗しなければならないのでしょうか、大同さんは頑張っている感じがします。

(1)化学成分

顕微鏡組織SKD11・DC53

DC53カタログには(メーカーの意向もあるでしょうが)化学成分は示されていません。顕微鏡組織の比較がありますあるので、これで説明します。
(コピーのため、表示倍率は不正確ですので注意ください)

組織を比較すると、白い塊の量や大きさが違っています。これはCr系の炭化物で、非常に硬い組織です。

単純に考えると、 DC53は8%CrですのでSKD11の12%Crより少なくて炭化物が小さいので、炭素量も低めに調整されていることが確認できます。

さらに、のちに紹介する「熱処理硬さ」を見るとわかるのですが、8%Cr系の材料は、500℃以上の高温焼戻しをした時の硬さ上昇が大きいことから、 Mo量を増やしているものが多いのですが、このことで素地(マトリックス:炭化物以外の部分)の強さを高めたり、硬さによって耐摩耗性を高めている という設計がなされているということも推定できます。

当然、SKD11に比べて炭化物が小さいので「じん性値」も高く、そのばらつきも少ないという特徴があります。

私の記憶では、この材料が販売された当時は、「SKD11よりも優れたSKD11」というように紹介されており、鋼材やさん仲間でも、 「じん性の高いSKD11」という売り方がされていたようです。

当然、他社も同様に8%Cr系の材料は製造されており、 それぞれの特徴をPRしているようですが、大同特殊鋼では「耐摩耗性を落さない」 というところを重視していた感じがします。(日立金属を含めて、他社では、SKD11以上のじん性の高さを強調している感じです)

やはり、成分系からはSKD11に比べて耐摩耗性が落ちるために、硬さを高めにとることでそれを補おうとしている感じになっており、さらに、 これらの鋼種は高温焼き戻しでSKD11以上の硬さが出るのは大きな特徴ですので、 このことから、はっきりと「8%Cr系」という分類でSKD11とは一線が引かれてきているのは当然のことだと思います。


(2)強度・じん性など

DC53のカタログに掲載されているグラフは次のものです。

焼き戻し温度と衝撃値 硬さと衝撃値 硬さと耐摩耗比較 回転曲げ比較 硬さと曲げ耐力 焼き戻し温度と破断強度
軟化抵抗比較 耐焼き付き性比較

掲載されている図表は多いのですが、やはりSKD11より優れているという内容になっています。ただ、日立金属のSLDの場合とは違う点は、 高温焼戻しを巧みに利用することでその特徴を出している・・・という内容になっています。

衝撃値の関係や曲げ破断強度などについて、この点をうまく使うといい・・・ということが示されています。

このことについても次ページの熱処理との関係の中で説明しますが、硬さ範囲を考えないといけない点に注意しなくてはいけません。

焼戻し軟化抵抗や耐焼付き性の図表を見るときも、そもそも、DC53は高温焼戻しをすることでSKD11との優位性が出てくるといっているので、 同一条件の試験ではないことにも、同じく注意しなければなりません。

とはいっても、DC53はじん性が高く、熱処理での硬さ操作範囲が広い、使いやすい材料と言えます。

◎ それでは、どちらがいい?

この質問は愚問と言ってもいいのですが、一般のかたで、鋼材に詳しくない人にこのような質問をされることがよくあります。

先にも書きましたが、そもそも、成分や作り方が変わると何かが変わります。硬さが高ければじん性が低くなりますが、同レベルの硬さであっても、 熱処理温度やそれに伴う特性は変化します。

ある材料に対して「この特性をもっと上げたい」というような考え方では、アプローチの仕方があるのですが、「どっちが良い?」という問いには答えにくいでしょう。

次ページでは、熱処理を含めた考え方や、カタログに示されたからくりなどを考えていくことにします。


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