電子サイレンIC「SC1006」を使って遊ぶ
この電子サイレンSC1006の音は、車の盗難防止用の警報音として使われており、よく耳にするものです。 けたたましい音が鳴り響くものなので、聞くと「これのICの音だったのか・・・」とわかるような、誰もが聞いたことがある音がプログラムされているICが SC1006 です。
ここでは、けたたましい音を出すのではなく、このIC「SC1006」を使って、回路をつくって楽しんでみようと思います。
固定抵抗は1/4Wとしていますが、よく使う1/8Wのものでも、電流値を確認しておけば問題ないでしょう。
このICには6種類のサイレン音が内蔵されており、市販の警報機では、それを連続して鳴らすように作られています。それは、よく耳にする音です。
IC自体は安いですし(R5年1月:秋月電子@50円)、外付け部品も少なく、回路を発展させてアレンジしていくのもできそうです。 しかし残念ながら、データシートの回路図が丁寧でないので、ここでは、このICがどんなものかをみていきましょう。
SC1006のデータシートがわかりにくい
このICを購入した秋月電子さんのページからデータシートがダウンロードできるのですが、英語であるうえに、説明のない記述などもあって、かなりわかりにくいので、データシートから、必要そうなところを抜粋して日本語の説明を加えました。
記事を読むと、出力(BZ1・BZ2)の抵抗R2は1kΩ、発振端子に300kΩを用いると128KHzで発振する。 VDDには4.5VまでがOKで、出力端子からは3mA程度が出力される ・・・ などと書かれています。
PRこの回路は、出力端子の一方だけを使って、NPNトランジスタのダーリントン接続を使って、スピーカーを鳴らす回路のようです。
ここでは、まず、スピーカではなくて、圧電サウンダー(圧電スピーカ)をつないで、どんな音が出るのか、部品の抵抗や容量はいくらにするといいのか・・・をみることから始めます。
外付け部品が少ないので、部品をつないでみて、もしも、何か都合が悪ければ、そのときに「別のものに変えればいい」という方針で、ともかく、やってみましょう。
具体的な回路を考えてみます
圧電サウンダーを使うとすれば、出力はそんなにいらないので、ダーリントン接続で使われている2つのトランジスタは1つで問題なさそうです。
トランジスタの図記号は「NPNタイプ」になっていますので、このHPで使い慣れている 2SC1815 を使います。
2SC1815のコレクタ電流は150mAくらいまでですので、もっと電流値の大きいトランジスタを使うと、スピーカに変えたときに大きな音が出せますが、抵抗器に流れる電流に注意が必要です。
スピーカの許容電力が0.5Wのものが手元にあるので、乾電池2個の3Vと仮定とすると、 電力P=電流Ix電圧V から、0.5=Ix3 で167mA ですから、出力を控えめにすれば、2SC1815 が使えそう・・・ということなどがイメージできます。
PRそこで最初は、以下のような回路をつくってみて、そのあとに、データシートにあるようなダーリントン回路にして、ダイナミックスピーカーを鳴らすことをやっていきましょう。
(検討回路図)
①発振端子は300kΩで128kHzと書いてあります。 しかし、128kHzは人間の耳で聞こえないはずで、データシートには 470kΩ・85kHz ~ 220kΩ・177kHz という数字が書いてあって、これが書いてある意味がよくわからないのですが、大きい抵抗値になると、周波数が下がっているので、500kΩの可変抵抗にして抵抗値によって音がどうなるのかを確かめることにします。
また、安心のために、可変抵抗を絞っても抵抗がゼロにならないように、51kΩの固定抵抗を直列に入れました。
②電解コンデンサは、しばしば(私は何も考えないで、まず) 10μFを使うことが多いので、最初は10μFで試してみます。 もちろん、4.7μFから47μFの電解コンデンサでどうなるのかを見ることにして、それらを準備しておきました。
③電源は4.5V以下であればいいので、乾電池2個をイメージして3Vで試します。 これも、データシートにはVinがVDDの±0.3Vということが書いてあるのですが、この意味がよくわからないので、どのくらいで動作するのかは、電源電圧を変えて確かめてみることにします。
④データシートの図には、ダイオードを通して電圧をかけた図が書いてあります。 そこで、手元にあったERA32-02(200V・1A)を使ってみたのですが、特に変わった感じがありませんでしたので、最終的には、ダイオードは使わずに、下のような回路にしました。
⑤圧電スピーカの並列の抵抗器なども適当に値を決めました。
以上から、次のような回路にしました。
【回路1】
SC1006の6番ピンは、5番ピンと同じ出力がでているようです。 今回は、5番ピンからの出力を使います。 そして、3番ピンは「TEST」となっていて、データシートには使い方が書いていないので、この3番ピンも使いません。
PRこれを、ブレッドボードに配線しました。
3Vの電源につなぐと、小さい「ピー」と言う音が聞こえましたので、500kΩのボリュームを回して、聞こえやすい状態にしますと、聞き覚えのある6つのサイレン音が繰り返し鳴っているのが聞こえます。
500kΩのボリュームを回すと、若干の音程とスピードと音量が変化します。
音が大きいところが全体に聞きやすい音になるようなので、よく聞こえる状態にしておけば、特に、たえずボリュームで音を変える必要もなさそうです。
データシートには抵抗値と周波数の関係が示されていますが、自分の耳で聞いてボリューム調整をすればいいので、データシートの値は無視してもいいでしょう。
結果的には、最終回路図のように、あらかじめ「適当に決めた」抵抗値やコンデンサ値でも、特に問題もなかったようで、データシートの数値の意味もよくわかりません。
製品として使えるように、基板にしっかり回路を組んで、バイクなどに搭載するのであれば、各部の電流や電圧を確認して、調整する必要もでてきそうですが、趣味で、ブレッドボードで作る分には、音が出ればいいだけなので、詳しい測定などはここではやっていません。
さらに、圧電スピーカと並列の220Ωを100Ωに変えても、特に何も変わった感じがしませんし、適当に決めた10μFのコンデンサも4.7μF~47μFにしてみたのですが、これも特に変化もありませんでした。
すなわち、回路図に詳細値が書いていないのは、いくらでも大した違いがない・・・ということでしょうか。
スイッチSWを押すと第1音の「ぴよぴよ」が連続して鳴ります
SWを押すと、「ピヨピヨピヨ」という1音だけの連続音になります。 SWを戻すと、また6音が繰り返して鳴ります。
PR音の大きさはそんなに大きくはありません
さらに、電源の電圧を0Vから4.5Vに変えて、音がどうなるのかを確かめてみました。
その結果、2V弱ぐらいで音がなり始めて、いちおう4.5Vまでの確認したところ、電圧が高いほど音は大きくなりますが、バカでかい音にするのではないなら、3V程度で結構大きな音がでています。
データシートの推奨回路は、ダーリントン接続で増幅させている回路になっており、市販されている自動車の盗難防止用製品で聞く音は、バカでかい音ですが、トランジスタ1つで、圧電スピーカーを用いているので、試験回路の音は、小さな部屋で用いる警報音として使える程度の音なので、うるさいほどではありません。
ダーリントン回路で音を大きくする・・・
そこで、この回路で、①1kΩの抵抗値を小さくする、②大きな圧電スピーカを使う、③圧電スピーカの並列抵抗を変える・・・などで、少しは音は大きくできそうですが、基本的には圧電スピーカでは音の大きさが限られるので、データシートにあるようなダーリントン回路を使って、小さなダイナミックスピーカーを鳴らしてみることにします。
ダーリントン回路についてはこちらにも私の記事があります。簡単にトランジスタの増幅度が上昇します。
そこで、下図のように、私が慣れているエミッタ接地の回路図にしました。
【回路2】
この回路でスピーカを鳴らしてみると、イラツクくらいの大きい音になりました。
スピーカに流れる電流を測定してみると、(出ている音によって電流値が変わるようですが) 最大で60mA程度の電流が流れています。
スピーカは0.5W用ですので、この状態では、 0.06Ax3V=0.18W ですから、2SC1815では限界ですので、大きい電流が流せるトランジスタであれば、トランジスタを取り替えるだけで、もっと大きな音にすることは簡単にできますね。
トランジスタのベースに入る抵抗が、図のように 1kΩ の場合のベース電流を実測すると1mAです。
まだまだ流せる余裕があるので、トランジスタを変えて、抵抗値を小さくして、それでベース電流を増やしたり、電源電圧を高めにする・・・などで、大きな音が出るようにすることを試しても面白いのですが、大音響の警報機を作ることが目的でないので、今回はこれらはやりませんが、これらは簡単ですから、希望する方は試してみてください。
いろいろとアレンジをして楽しんでみよう
電子工作の面白さは、「何かを考えて、そしてそれをやってみる」ことだと思います。
今回も、よくわからないデータシートをみながら、いろいろとやってみただけですが、それでも、目的とする状態にできました。 しかし、このICに内蔵の、「6種類のサイレン」を鳴らすだけで終わったのではもったいない気がします。
実際に回路を組んでの紹介はしませんが、例えば、このSC1006を使っている、秋月電子さんの「振動サイレンキット」の説明書(秋月電子さんのHPからダウンロードできます)をみると、非常に面白い回路を考案されています。
1つは、傾くとスイッチが入る「傾斜スイッチ」とSBSという素子を使って、例えば、バイクが盗難で持ち去られようとすれば、傾斜スイッチで大音響のサイレンが起動するようになっています。
そして、一度スイッチが入ると、自己保持状態(スイッチが入りっぱなし)になり、傾斜スイッチが元の位置に戻っても、音は止まないですし、さらに、傾斜スイッチ回路がONになると、回路に流れる電圧をかさ上げして音が出る・・・という、考えられた回路になっています。
さらに、そのキットでは、もう一つの仕組みが加えられていて、SC1006の、ここでは使用しなかった6番ピンの出力端子を利用して、音に合せてLEDが点滅する回路になっています。
流石に、このように、「電子のプロ」が考えると「すごい」回路になるものだ・・・ と感心しているのですが、このように、一つの基本回路に何か違った回路を付加することをイメージして、それを実際に回路に組んで確かめる過程は楽しいものです。
音に合わせて、1つのLEDが点滅するのを、すこし変更して、いろいろなLEDが出力電圧にあわせて点滅するようにしたり、この回路は、鳴りっぱなしなので、停止スイッチを付けたり、タイマーをつかって、一定時間経過すると、大音響が止まる・・・などは、簡単にできる変更箇所でしょう。
電子工作には完成形がないので、決まりきった回路を組み立てて楽しむ以外にいろいろとアレンジをして AT HOME での趣味の世界を楽しみましょう。
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